子どもの心境は変化します。
例えば「がんばれ」という言葉ひとつとっても。
かつて映画館で「プリキュアー!がんばれー!」と叫んでいたし、運動会でも「がんばれ!」と応援されるのを喜んでいたのに、いつの間にかプレッシャーになっていた。
この変化の理由を深掘りしたいと思い、昨晩、おにぎりさん(おにぎりまん🍙人事の左腕)と、Xにてこのテーマで対談しました。
本記事では、昨夜行った対談を元に、子どもに「がんばれ」がどう伝わるのか、プレッシャーになる年齢やサイン、声かけの工夫を脳科学と実体験から解説します。
がんばる子どもと向き合いたい保護者の方に、応援のヒントをお届けします。
「がんばれ」の定義って?
そもそも「がんばれ」はどんな定義でしょうか。
「がんばれ」という言葉自体がとても広い意味を持つため、明確に定義づけるのが難しいです。
応援する側は「相手にこの壁を乗り越えてほしい」という気持ちで勇気を与えるつもりで言っても、受け取り手の状況や心境によっては、プラスにもマイナスにも受け取られてしまいます(うつ病など精神的に不安定な方にはもちろん御法度)。
結論としては、「むやみにがんばれという言葉を使わないほうがいい」が基本。ただし、応援されることで成り立つ芸能人やスポーツ選手には有効。
よく考えてみてください。外国には「がんばれ」に変わる言葉がそもそも存在しません。「困難な状況でもくじけずに努力を続けるように相手を励ます言葉」ではありますが、外国の場合は、「Good luck(幸運を祈る)」だとか「Have fun!!(楽しんで!)」など、「困難は楽しむもの」として位置しているように思います。
なので、日本ならではの美学が背景にはあるのかな、なんて思いますが、精神的苦痛に繋がることがあるのは事実。
「がんばれ」という言葉をかけるとき、相手の心境や背景を考えることはとても大切です。
しかし、どの年齢でもプレッシャーに感じるわけではありません。まず前提として、何歳くらいからプレッシャーと感じるのかを、成長発達の順で見ていくと全体像が見えてくると思います。
「がんばれ」がプレッシャーになるのはどんなとき?
そもそも子どもは“プレッシャー”を感じるのか?
まず、プレッシャーを感じるとはどういうことなのかを言語化してみます。
定義するとしたら、
- 相手の期待に応えたい
- 失敗したら恥ずかしい
- 乗り越えなければいけない壁
この3つに分類されるかと思います。
それぞれを言葉で表すと…
- 「相手の期待に応えたい」
→ 褒められたい、認めてもらいたい、緊張する、高揚している、失敗したら怖い、嫌われたくない - 「失敗したら恥ずかしい」
→ 見られたくない、きっと失敗する、失敗したくない、だからこそがんばりたい - 「乗り越えなければいけない壁」
→ やらなきゃいけないのはわかってるけど、勇気が出ない。背中を押してほしい。
書いていて、我が子の心境に置き換えたら胸が苦しくなったのですが(失敗したからって嫌わないよ! どんな姿も認めてるし、いつまでも大好きだよ!)
この3つに、なんとなく共通点が見えてきましたよね。
つまり、プレッシャーを感じるには「他者評価」や「未来のことを想像する能力」が必要なんです。
年齢別:「がんばれ」の受け取り方の違い
0〜2歳|プレッシャーとは無縁の時期
- 自我(自分と他人の区別)がまだ未成熟
- 大人の期待や評価に“気づく”段階ではなく、自分のやりたいことを本能で追う時期
➡️ 「がんばれ!」は音やリズムのように聞こえるだけで、プレッシャーにはならない
3〜4歳|評価への感受性が芽生える
- 自己意識(IとMeの分化)が始まり、「見られている」「褒められたい」という感情が出てくる
- プレッシャーというより、「うまくやりたい」「期待に応えたい」気持ちが強まる
- 脳:前頭前野(自己制御・判断)、側頭葉(社会性)が発達し始める
➡️ 例:「先生が見てるからがんばる」「ママにすごいって言われたい」
また、大好きな戦隊シリーズやプリキュアの影響で自己投影が可能になり、強い敵とも戦うモチベーションが生まれる
5〜6歳|努力と結果の因果関係を理解し始める
- 「がんばる=成果が出る」「ほめられるために努力する」という因果構造を理解し始める
- 他者の期待に応えたい気持ちが強まり、「失敗=恥ずかしい」と感じるように
※ここからプレッシャー(緊張や不安)という感情が現れる
➡️ 例:「できなかったらどうしよう」「がんばれって言われると焦る」
6〜8歳(小学校低学年)|他者評価が本格的なストレス要因に
- 社会的比較に敏感になる(○○ちゃんはできたのに、自分はできない)
- 「がんばれ」が「がんばらないといけない」「失敗しちゃいけない」というプレッシャーに変化
- 「本番」「発表会」「運動会」などで緊張・不安を感じやすい時期
- 脳:扁桃体(不安・恐怖)と前頭葉の連携が強まり、感情コントロールが必要になる
9歳以降(小学校中学年〜高学年)|内面的なプレッシャーへ
- 自分で「こうしなければ」と思い込む「内的プレッシャー」が増える
- 「がんばれ」が自分を追い込むトリガーになることもある
➡️ 例:「がんばってって言われると、失敗できない気がする」
「がんばれ」のプレッシャーで背中を押されることもある
もちろん、「がんばれ」という声かけが常にプレッシャーになるわけではありません。子どもにとって、適度なプレッシャーは挑戦する勇気を引き出してくれることもあります。たとえば、見た目がグロテスクな食べ物に「ちょっと食べてみようか」と背中を押すことで、意外と「おいしい!」と気づくことも。
怖がっていたジェットコースターも、一度乗ってみたら大はしゃぎするかもしれません。そんなときの「がんばれ」は、子どもの世界を広げるポジティブなきっかけになります。
大切なのは、子どもの気持ちに寄り添いながら、そのプレッシャーが「成長につながるものかどうか」を見極める視点です。つまり、子どもにとって内発的動機づけに繋がればOK。
「がんばれ」と言われるのが、内発的動機づけにつながるならOK
大人と違い、子どもが「がんばれ」と言われて出すモチベーションは、内発的ではなく「外発的動機づけ」が多いです。なぜなら前頭前野がまだ未発達だから。
未来を予測する力が弱く、「成功体験」が想像できないため、「がんばった先の報酬」を自分の中で結びつけにくいのです。
つまり、「がんばれ」と言う前に大切なのは:
① その壁を乗り越える必要性を理解すること
② 乗り越えたあとのフィードバックを与えること
特に①は、子どもの年齢や理解度に応じてしっかり伝える必要があります。
【点滴の例】
ここで点滴を例にして、どのように内発的動機づけのモチベーションに変えるのかみていきましょう。
①必要性を伝える(現状を理解させる)
注射なんてもちろんやりたくないですよね。だけど、しなきゃいけない理由がある。そこを理解しているのとしていないのとでは、大きく違います。
- 病気を治すために必要 → なんで?
→ 体に栄養を入れるため → 入れないとどうなるの?
→ 細菌と戦う力がなくなって、大好きな遊びができなくなるし、また入院しなきゃいけなくなるかもしれない
【でも】点滴をすればどうなる?
→ 細菌と戦う力がついて、すぐに元気になれる。怖いけどこれをがんばれば、早くおうちに帰れて、またお友達と遊べるし、好きなごはんも食べられるかもしれないよ!
②乗り越えたあとにフィードバック
「針を入れる時にじっとしていたから、すぐに終わったよ!」
「点滴終わったから、体の中にいた細菌の数が減ったよ。お家に帰れるし、お友達とも遊べるよ!」
なるほど、この時にこの行動をとったから、結果こんな良い結果になったんだ、という、成功体験を理解することができます。
子どもは脳や経験が未熟なので、自分の中で答えを持ち合わせていません。自分のこの行為が果たして合っているのか、常に試行錯誤です。特に大きな壁を乗り越えようとしている時は余計に不安。なので、例でいう「点滴の針を入れる瞬間」もフィードバックがあると、より自信が持てます。
このような関わり方をすることで、子どもにとって大きな試練だとか壁を乗り越える力が身に付きます。
こんなサインは要注意!「がんばれ」がプレッシャーのときの行動とは
稀にですが、実際に病棟で保育をしていると、「がんばってって言わないで…」と泣く子もいます。
偉いですよね、自分が嫌な事を言葉にして伝えられるんです。
しかし、基本的には自分の感じてるプレッシャーを言葉にできる子は少ないです。
でも、替わりに体や行動、ちょっとした表情の変化にそのサインは現れています。
たとえば、以下のような様子が見られたときには、「がんばれ」という言葉が負担になっている可能性があります。
- 無言で固まる(緊張で思考停止している)
- 表情がひきつる、目が泳ぐ
- 「できない」「無理」と繰り返す
- 手足をバタバタするなど、過剰な動きが出る
- 甘えてくる(抱っこ、手をつなぐなど)
- 別の話題にそらす、ふざけ始める
- 頭痛・腹痛・吐き気など体の不調を訴える(※心因性のことも)
★特に「固まる」は、脳の扁桃体が危険を察知しているときの典型的な反応。
この状態では、前向きな励ましの言葉すら届かず、逆効果になってしまうこともあります。
「がんばれ」はどう響いている?
たとえば、注射や点滴のとき。
大人は「痛いけど必要」とわかっているから耐えられますが、子どもはそう簡単にはいきません。
そんな場面で「がんばれ!」と言うと、子どもはこう感じてしまうかもしれません。
- 「がんばれって言われるけど、怖いものは怖い!」
- 「できなかったら、がっかりされるかも…」
- 「泣いちゃいけないのかな?」
子どもが実際求めているのは「がんばるように言われること」ではなく、「怖さをわかってもらうこと」「そばで見守ってもらうこと」なんです。
「がんばれ」の感じ方:年齢別に見ると…
2〜3歳(言葉の意味がふんわりしている時期)
- 「がんばれ」は音や雰囲気の応援として受け取ることが多い。
- 実際には「ママがそばにいる」「見守られてる」という安心感が支え。
- プレッシャーというより、一緒に乗り越える空気感として受け入れる。
- 例:「がんばえ〜って言われた!プイキュアみたい!」
4〜5歳(言葉の意味がわかってくる)
- 「がんばれ=我慢しなさい」と聞こえる子も出てくる。
- その子がすでに不安や恐怖を感じている場合、「がんばれ」が追い詰める言葉になる可能性あり。
- でも、成功体験がある子や、ヒーロー・ヒロインに投影できる子にとっては励ましになる。
6歳以上(他人の期待や評価に敏感になる)
- 「がんばれ」=泣いちゃいけない・逃げちゃいけないと感じやすい。
- とくに「泣いたら恥ずかしい」「できなかったら怒られる」など、自己評価がからむとプレッシャーになる。
- 例:「がんばれって言われたけど、ムリだと思った」「泣かないようにがんばったけど痛かった…」
注射のとき、「がんばれ」がプレッシャーになる例
保護者の方だけでなく、看護師さんやドクターなど、応援したいがあまりについ口にしてしまう「がんばれ」との併せ技。つい口にするのは自分(発言側)が安心したいからという心理的な理由はきちんとありますが、言われた側にとってはかなり信頼関係に響く内容なので注意が必要です。
- 「がんばれ!泣かないで!」「お兄ちゃんでしょ?」
→ 条件付きの応援 → 「泣いたらダメ」「泣いたらがんばってない」
→ 感情の抑圧 → プレッシャー
➡言う側の心理:「お兄ちゃんでしょ?」という言葉には、「年齢や立場にふさわしいふるまいをしてほしい」という役割期待が含まれている。 - 「がんばってね!痛くないよ!」
→ 嘘っぽく聞こえる → 信頼感の低下
→ 「痛かったとき」に怒りや裏切りを感じやすい
➡言う側の心理:「自分の行為が相手に苦痛を与えた」という事実と、自分の善意や育児者、医療従事者としての立場との間の矛盾を解消しようとしている。
つまり、「痛くないよ」と伝えることで、自分の行為に正当性を持たせ、罪悪感や不安を軽減しようとしている。(「認知的不協和」を避けるため)
プレッシャーにならない「がんばれ」の伝え方
「じゃあ、がんばれって言っちゃダメなの?」と思いますよね。
そもそも「がんばれ」以外にも応援する方法があることの認識が必要です。
大丈夫です、言い方や順番、子どもの理解度に合わせた工夫をすれば、応援はちゃんと心に届きます。
その1:「がんばれ」より「いっしょにいるよ」
不安が大きいときは「がんばれ」よりも、「怖いよね」「ママも横にいるから大丈夫」などの共感と安心の言葉が効果的です。
その2:「やってみようか?」と選択肢を渡す
自分で行動を決める自由があると、子どもは前向きに動けます。
「今やる?それとも5数えてから?」と、本人が選べる問いかけが◎。
その3:「がんばってるね」と現在進行形で伝える
「がんばれ!」ではなく、「もうがんばってるね」「すごく勇気出してるね」と事実を伝えることで、安心感につながります。
まとめ:子どもに届く応援は「気持ちに寄り添う言葉」
子どもにとって「がんばれ」は、時に魔法の言葉にも、時に重い鎧にもなります。
その違いは、「相手の気持ちをどれだけ想像しているか」「どれだけ寄り添っているか」で決まります。
泣いていても、怖がっていても、逃げたくなっても…
その中で子どもが一歩を踏み出そうとしている瞬間こそ、本当の「がんばってる」んですよね。
だからこそ、私たち大人は「乗り越えること」よりも「その気持ちに共感すること」を最優先にしたい。
その上で、そっと背中を押すような言葉を選べたら、それが子どもにとっての一番の応援になるんじゃないかな、と思います。
今回のスペースは87名の方にお越しいただきました!
沢山のコメントもありがとうございます。
みなさんと学びを深めることが、私の楽しみの時間です。
おにぎりさん、改めて、ありがとうございました!
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