病棟の保育士①

小説:病棟保育士
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病棟保育士についてご存知ですか?

病棟保育士とは、入院している子ども達のお世話をする保育士のことです。通常の保育施設と比べて定員数が少ないこともあり、あまり知られていませんが、入院中の子ども達の精神的なケアをする上で欠かせない職業です。

入院している子ども達にとって、入院はかなり大きな試練。突然家族と離れて過ごすことを余儀なくされ、柵付きのベッドに見慣れない機械に囲まれます。注射や検査などの痛みや恐怖にも一人で耐えなければいけません。看護業務に忙しい看護師さんに代わって、毎日不安と戦う子ども達のケアができるのが「病棟保育士」です。
【小説】の配信を機に病棟保育士について知ってもらい、少しでも多くの子ども達が安心して治療に望めるような未来に繋がるよう活動できたらと思います。

(※内容はプライバシー保護につきフィクションを含んでいます。)

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とある師走の朝。
石田志津は車窓を眺めつつ揺られていた。出勤ルートであるこの経路は、毎度見事な通勤ラッシュ。今にも車窓に頬がつきそうである。この電車に乗り合わせている大多数は無感情で乗車しているんだろうな。ストレスに対して感覚が麻痺してるなんて、まさに日本のビジネスマンって感じ。自分のことは棚に上げて心のどこかで見下した。

志津は今月から病棟保育士として、とある大学病院に勤めている。これまで保育園やベビーシッターとしての経験はあるが、病棟勤務は初めて。幼い頃に読んだとある偉人の本を読み、病棟勤務に憧れを抱いていたこともあり、日々充実した日を過ごしている。

病棟保育士というからには、勤務先は当然小児科である。小児科に入院している0歳~18歳頃までの子どものおむつ交換や玩具を使って一緒に遊んだり、食事の介助をしている。以前保育士が多かった時は保育日誌をつけたり、行事のイベントなどしていたそうだが、コロナ禍の影響や人手不足によって現在は行っていない。

入院している患児は年齢以外にも病状や障がいの有無なども含めて個性豊かだ。過去にベビーシッターとして病児の子どもの世話をしたことがあるが、次元が違う。ほとんどの子がチューブや点滴に繋がれており、まさしく植物状態の子もいる。

この日、志津は指が三本の障がい児のお世話をした。彼女の指の長さは均等でなく、大人のように細く長い指と3~5㎝程の短い指二本。初めて会った時「綺麗…」と胸が高鳴ったのを覚えている。志津にとっては障がい児は純粋で薄汚れていなく綺麗な存在。障がいが故に人の手を借りないと身なりは整えられないが、みんな共通して透き通った肌と目をしている。排気ガスを吸い込んで欲にまみれた生活をしている自分の方が余程汚らわしい。一見意思疎通が難しそうな彼女達にも「この玩具はいらない」「これは食べる」などときちんと意志があり、出来得る術を持って伝えてくる姿も愛らしい。相手に気を遣わず自分の想いを伝えてくる彼女達に眩しさすら感じた。

病棟保育士は医療ケアはできない。なので、子どもに対しては基本的に「一緒に遊ぶ」「おむつを替える」「食事の介助」など日常的なケアが基本となる。そして障がい児の場合は、医療的配慮が加わるので、できることがさらに限られる。多くのチューブに繋がれている患児が多いので、この病院では重度の障がい児の場合はおむつ交換も看護師の仕事だ。

志津はこの日、彼女に「食事の介助」をした。食事の介助をする時は必ずトレーに載っている紙の名前と患児の名前を確認する。「さえ(仮名)ちゃん、ご飯来たよ~。今日のメニューは十倍がゆと野菜の甘露煮風と…」献立を読み上げていると、すべて流動食なのが気になった。おそらく離乳食初期以上にトロトロ。さえちゃんは幼児。きちんと歯が生えている。不思議に思いつつ彼女の腹部に目をやると、「胃瘻(いろう)カテーテル」がついていることに気がついた。(※胃瘻(いろう)カテーテル…おなかに開けた穴にチューブを通し、直接、胃に食べ物を流し込む方法で取り付けられた器具)
なるほど、ここからも食事を摂るのか。
念のために看護師に確認したところ、今日初めて口から食事を摂るらしい。おぉ…さえちゃん自体も初体験?少しドキドキしながら食事の介助をした。彼女も意思疎通は難しいタイプの障がいを持っている。だけどメニューによっては表情や上半身を使って味の好みを伝えてくれるので、おもしろい。器用に三本の指を使って口を拭ったり、色で判別しているのか積極的に口を開けたりしている。可愛いなぁ。

とは言っても、口からの食事に慣れていないこともあり、なかなかなの苦戦。ベッドの上でも膝の上でも落ち着かない様子だった。しばらくすると看護師が様子を見に来てくれた。看護師に様子を伝えると、少しでも口から食べられたさえちゃんに賛辞を伝え、手早く大きい注射器に残った食事を淹れ、胃瘻(いろう)チューブを開放して食事を注入。
こんな様子を目の当たりに見られる仕事、病棟保育士以外にあるのだろうか。
胃瘻(いろう)に慣れているさえちゃんは表情を和らげてベッドに横になり、胃に食事が入っていく感覚を感じていた。

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