仕事や出張などで数日間家を空けた後、帰宅したら赤ちゃんが自分の顔を見て泣いてしまった…
そんな苦い話、度々耳にします。
パパの顔を忘れちゃった!?💦と心配になるかもしれませんが、実はこれは自然な現象であり、赤ちゃんが発達している証拠とも言えます。
そもそも赤ちゃんの記憶というのは、私たち大人とは違い、あまり長く保存しておくことができません。成長と共に記憶を保存できる力はついていくので安心してください。
久しぶりに会って泣かれた時は切なくなるけど、しばらくすれば愛情が戻りますし、なにより順調に成長していることがわかって喜ばしいですね。
改めて、どうしてこのようなことが起きるのか、複数の科学的根拠と発達心理学の視点から解説し、忘れられないためのコツをお伝えします。
なぜ赤ちゃんは父親を忘れるのか?
まず、赤ちゃんが父親を「忘れる」という表現は少し誤解を招くかもしれません。実際には、赤ちゃんは一定の期間に見知らぬ人や久しぶりに会う人に対して警戒心を持つことがあります。これは赤ちゃんの発達段階における正常な反応です。
では赤ちゃんは実際にどの程度「父親」の顔を認識していて、どのくらいの期間記憶を保存できるのかみてみましょう。
月齢別にみる!赤ちゃんの認知能力と記憶を保存できる期間について
赤ちゃんの記憶や認知能力は生後数ヶ月で急速に発達しますが、まだ完全ではありません。月齢別に認知能力と記憶を保存できる期間をみてみましょう。こちらは発達心理学を元に情報を掲載しています。
いつから父親の顔をわかってる?認知能力について
■新生児~
まだ母親と他人の顔の判別がつきません。視力は0.01程なので、20~30㎝先が見えるくらいです。この時点で人の笑う顔をよく見る傾向にあることがわかっています。
■3ヶ月~
母親と他人との区別がつくようになります。残念ながらこの段階では、父親は「母親ではない人」という認識で、視覚以外にも抱っこされる感覚、声、匂いなどから識別します。最初からパパが沢山お世話をしている場合は、ママと違うもう1人お世話をしてくれる人がいるという認識になる可能性はあります。
■6ヵ月頃~
\パパ見知り発動!/
この頃から人見知りも始まり、母親以外の人の顔も覚え始め、見知らぬ顔や久しぶりに会う顔に対して「不安を感じること」が多くなります。これは赤ちゃんの脳が「安全」と「危険」を区別し始めるためで、成長の一環です。
視力は0.1にまで成長しているので、近づいてくる時点で違いを認識できるようになります。なので、よく見る顔は「安全」とし、そうでなければ「危険」と判断します、おそらく普段からよくお世話をしてくれる父親であれば「安全」と認識してくれますが、その程度から「危険」と判断するかは個人差はあります。いずれにせよ、記憶を保存できるようになれば「安全」と判断が変わるでしょう。
どのくらい覚えてるの?赤ちゃんが記憶を保存できる期間
赤ちゃんの記憶について有名な実験は、アメリカの心理学者であるロヴィ・コリアのモビール実験です。
<ロヴィ・コリアのモビール実験>
①モビールの端を赤ちゃんの片足と結ぶ ②赤ちゃんはキックするとモビールが動く→喜んでキックを繰り返す ③数日後に同じようにモビールと片足を結び付ける ➡赤ちゃんがどのくらいの期間まで「同じような頻度でキックをするか」という実験です。
これによると、
・2ヶ月…約1~3日
・3ヶ月…約7日
・6ヶ月…約14日
という検証結果が出ました。
これにより、月齢が上がるに従って次第に長い期間覚えられるようになっていくのがわかり、また、月齢が低くても記憶を覚えていることがわかります。
また6ヶ月を経過すると家族や日常のルーチンを覚えることができます。おむつを替える時に両足を上に上げたり、次に起きるであろう行動がわかる一面が見られます。
★一口メモ:胎児の記憶について
胎児の場合、何ヶ月から胎内記憶があるのか。これは発達している五感によって答えは異なります。ここでは代表的な2つの感覚の記憶について紹介します。
■聴覚
妊娠30週でほぼ完成すると言われている聴覚。
1992年にマウラ博士がとある実験をしています。
①妊娠末期(33~34週)の16人の母親達に1日2回1つの話を音読してもらう
②生後三日目の赤ちゃんにおしゃぶりを咥えさせて、スピーカーから同じストーリーを流す
➡16人中13人がそのストーリーを聞いている間、おしゃぶりをよく吸った。
つまり、胎児のときに聞いていた母親の声、そしてストーリーを覚えていたと結論付けられます。
■嗅覚
妊娠28~30週頃に完成します。とある実験では、産後30分後の赤ちゃんに羊水のにおいを嗅がせると30秒で泣きやんだという検証結果があります。羊水のにおいは母乳のにおいに似ているようで、赤ちゃんは母乳を飲む時や、ママに抱かれている時は安心できるそうです。(ただカレーや鯛のあらなど食べるものによって母乳の匂いは変わるようなので一概にとは言えないようです。参考:母親の食事形態による母乳の匂いに与える影響)
我が子に泣かれてしまった後の対処法
赤ちゃんが父親を見て泣くのは、単に見知らぬ人と認識してしまうからです。では、どうすれば赤ちゃんとの絆を再構築できるのでしょうか?
■穏やかなアプローチ
急に抱き上げるのではなく、まずは赤ちゃんと視線を合わせて、笑顔で話しかけましょう。赤ちゃんは白と黒が並んでいるものは赤ちゃんも認識しやすいため、正面からの顔の方が覚えやすいです。
愛が込められた眼差しと声に包まれることで、赤ちゃんは安心感を感じ、徐々に緊張を解くことができます。
■母親に協力してもらい、少しずつスキンシップを図る
赤ちゃんが母親に対しては安心感を持っている場合、母親に協力してもらいながら少しずつスキンシップを増やしていきましょう。例えば、母親が赤ちゃんを抱っこしながら父親が優しく話しかけてみましょう。赤ちゃんは母親の顔を一度見ます。そこで母親が安心した朗らかな笑顔でいる場合、赤ちゃんはより警戒心が減ります。感覚で生きる赤ちゃんは、「あ、この人は危害を加えない人なんだな」と認識するようになります。
■積極的にお世話をしたり、スキンシップを図る
可能な限り、毎日少しの時間でもいいので赤ちゃんのお世話をしたり一緒に過ごすようにしましょう。顔を見せるだけでも、赤ちゃんは徐々に父親の存在を再認識します。
★お世話をする際のポイント
赤ちゃんの機嫌を考慮した上で、最低でも15分は集中してお世話をすること。15分は一般的に言われているオキシトシンが分泌される時間です。15分間携帯やテレビを見ずにしっかりスキンシップを図ると、赤ちゃんは満ち足りた気持ちになります。一緒に遊ぶ時は、赤ちゃんのお気に入りのおもちゃや遊びを取り入れてみてください。遊びの中で父親の存在をポジティブに認識するようになります。
■五感を活用した赤ちゃんとの接し方
赤ちゃんは五感を通じて多くの情報を受け取ります。ならば五感を通して接するとより効果的に父親の存在を感じてもらえます。
・視覚:正面から笑顔で接する/表情豊かに接する/容姿を変えない
ハーバード大学の研究により、赤ちゃんは笑顔を好んで注視する傾向にあります。無表情で接すると赤ちゃんのストレス値が上がり、泣いたり元気がなくなることがわかっています。また、赤ちゃんは動くものに興味を示す傾向があるので、表情をコロコロ変えると興味を示してくれるかもしれません。
赤ちゃんは視力が未発達のため、極端に髪型を変えたり、急にメガネをかけたりすると認識できなくなることがあります。8ヵ月頃から母親が髪型を変えても認識できると言われていますが、父親はもう少し先かもしれません。小さいうちだけは、容姿を変えず”いつものパパ”の姿でいると効果的です。
・聴覚:優しい声で話しかける。
声のトーンを穏やかに保ち、赤ちゃんに安心感を与えることが重要です。赤ちゃんは高い声を認識するので、極力声を高くして話し掛けましょう。
・触覚:抱っこや撫でることで肌の触れ合いを大切にする。
赤ちゃんを抱っこする際には、優しく撫でたり、抱きしめて安心感を与えましょう。タッチケアは赤ちゃんとの絆を深めるのに役立ちます。
・味覚:授乳タイムを大切にし、母乳やミルクの味を楽しませる。
授乳の時間は、赤ちゃんにとって安心感を感じる大切な時間です。母乳やミルクを味わいながら、視覚や聴覚でも授乳してくれている相手を認識します。
・嗅覚:父親の匂いがついた衣類を使って安心感を与える
数日ぶりに帰宅した際には、赤ちゃんに父親の匂いがついた衣類を近くに置いてみましょう。これにより、赤ちゃんは安心感を感じやすくなります。
出張中でも覚えてもらえるためのコツ
日頃から積極的に育児に参加している場合は、生後2ヶ月以内でも赤ちゃんの記憶に残っている可能性があります。より効果的に覚えてもらうためには、やはり「五感を意識すること」
先述しましたが、赤ちゃんは五感を通して脳に刺激を送ります。
ならば出張中でも可能な限り五感を通して父親の記憶を残すことは可能です。
■毎日ビデオ通話をする(視覚・聴覚)
仕事が落ち着いた時や終業後など、空いた時間にビデオ通話で顔を見せましょう。家のように長い時間見せることは難しいと思いますが、いつも見ている、いつも聞いている父親の存在を感じることができるので、帰宅後も記憶は残っている可能性があります。
■母親に協力してもらい、父親の服を布団替わりにしてもらう(嗅覚)
赤ちゃんは母親の匂いが一番安心しますが、積極的に育児に関わってくれる父親の匂いも大好きです。「あ、この匂いは僕を守ってくれる匂いだ!」と安心して入眠することができますよ。帰ってきた後の抱っこも嗅覚を通して安心することと思います。
まとめ
赤ちゃんが父親の顔を忘れて泣くことは、脳の発達とともに生じる自然な現象です。重要なのは、焦らずに赤ちゃんに対して穏やかに接し、安心感を与えることです。母親の協力や日常的な接触、遊びを通じて、赤ちゃんとの絆を再構築することができます。適切な対応をすることで、再び楽しい時間を共有することができるでしょう。
赤ちゃんとの時間を大切にし、成長の一瞬一瞬を楽しんでくださいね。
参考文献
・乳児は延滞模倣課題で何をしているのか? 志村 久
・記憶の生涯発達心理学 太田信夫,多鹿秀継. (2008)
・Rovee-Collier, C. (1997) Dissociations in infant memory: Rethinking the development of implicit and explicit memory. Psychological Review, 104, pp.467-498.